音楽観光ガイド・ブルーズ編

音楽観光ガイド

お久しぶりの音楽観光ガイド。第二弾は渋さあふれる音楽、ブルーズ(ブルース)。歴史は古く、カントリー・フォークやクラシックと並び、現在のポップミュージックに多大な影響を与え続ける音楽です。前回のように観光らしく国に例えて、いったいどんな国なのかご紹介していこうと思います。

ブルーズ国の国民性は、”うまくいかねえぜこんちくしょう”です。

そんな国大丈夫かって?大丈夫。なぜなら、彼らは不屈でとても粘り強いからです。

エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ(レッド・ツェッペリン)、ジミ・ヘンドリックス、キース・リチャーズ(ローリング・ストーンズ)、デヴィッド・ギルモア(ピンク・フロイド)、、、すごいメンツです。この他にもジョン・メイヤー、デレク・トラックス、ジャック・ホワイト(ホワイト・ストライプス)、、、キリがないので超有名な人だけにしておきましょう。

この中に好きなアーティストがいれば、あなたはもう半分ブルーズ国に足を踏み入れています。驚きですね。もちろん彼らはロックのミュージシャンです。ですが、そのリスペクトは間違いなくブルーズに向けられたアーティストたちです。彼らの音楽を聞くことは、発展したブルーズを聞いていると感じていただいても差し障りないと思います。そして、挙げたアーティストの共通点に気づいた方もいらっしゃるでしょう。そう。みんなギタリストです。実は彼らに限らず、大半のロックギタリストが直接的間接的にブルーズの影響下にあると言えます。とてつもない影響力ですね。なぜなのか?それは、ギターが最も花形である国、それがブルーズ国だからです。歌は勿論、沢山楽器がある中で、何故ギターなのでしょうか、その理由をみていきましょう。

ブルーズ国で大事にされているのは、”うまくいかねえぜこんちくしょう”という感情でしたね。一口にうまくいかないといっても色々あります。

「頑張って働いても給料は雀の涙」「上司や同僚にからかわれたり馬鹿にされる」「バカだけど俺のが優しくていいやつなのに彼女(妻)に逃げられた」「あいつはいいよな上手くやってて」「生まれが違うだけで散々だいつか目にものみせてやる」「何もできずに今日も酒が友達」

これらはブルーズに出てくる典型的な歌詞です。確かに、うまくいってませんね。でも、多くの人が体験したことのある感情だと思います。その時の気持ちを思い出してみてください。どうですか?叫び出したかったり、こぶしを握りしめて耐えていたり。まさにそれを表現しているのがブルーズです。これを演奏で表現するためには、似たリズムを繰り返したり(耐えている)、急激に大きい音を出したり(叫んでいる)する必要があります。これに最もふさわしかった楽器、それがギター・エレクトリックギターでした。原始的なエレクトリックギターアンプは大きな音量を出すと音が濁って(歪んで)しまいましたが、むしろ大きくて濁った音は、ブルーズの叫び(怒り)の表現にもってこいでした。なので、大音量が出力可能なロックアンプとギターの達人たちが出会うことで、ブルーズの魅力を存分に世界に伝えることができたのです。もちろんハーモニカなど、他にもブルーズで主役になる楽器はありますが、突出してギターの人気が高い国です。なので、ギターがお好きな方は特に好きな国でしょう。上述したギタリストたちは人気・実力ともにトップクラス。好きなアーティストを選んで、彼らのリスペクトしているブルーズマンやカバーしている曲の原曲を聞けば、必ずブルーズ国の案内役となってくれるでしょう。

いや、わいは最初からブルーズの中のブルーズが聞きたいんや。そんな方もいらっしゃるでしょう。日本と言えば京都。どうせ日本に行くなら京都に行きたい。その気持ち分かります。そんな方には、アコースティックギターを用いるカントリーブルーズ(デルタブルーズ)や、エレキギターを用いるシカゴブルーズといったビンテージスタイルのアメリカンブルーズがお勧めです。上述したアーティストたちが影響を受けた大元のブルーズで、その”うまくいかない”濃度たるや濃紺。青すぎて限りなく黒に近いものも沢山あります。これは第一弾のジャズと同じく、初めは聞き馴染みがないかもしれません。ところがジャズ同様、この濃さに慣れてしまうともう戻れない。そんな強力な魅力があります。

そんなアメリカンブルーズ、はじめの一枚を選ぶ基準は簡単。ブルースコーナーにあるもので、なんかかっこいいかどうか。これはジャズでも同じでしたね。汗だくで演奏しているジャケットや握り拳のジャケットなどなど、お〜と思ったものを聞いてみましょう。どれでもある程度間違いないだろうというミュージシャンを敢えて挙げると、ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ジョン・リー・フッカー、ハウリン・ウルフ、B.B.キング。5名だけにしておきます。聞いてみていかがです?人を拒む荒涼とした大地、吹き荒ぶ空っ風、そしてくそくらえなあいつ。この魅力に取り憑かれたならば、もうブルーズ国の虜です。もちろん暗いブルーズだけでなく、前向きなブルーズも沢山収録されていると思います。前回に倣い、私が大好きな作品も3つ挙げておきます。アルバート・キング「ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン」B.B.キング「ライブ・アット・ザ・リーガル」ハウリン・ウルフ「モーニン・イン・ザ・ムーンライト」。良かったらこちらもぜひ。

いや、そこまで濃いのはちょっと、、、という方には、ロックの細分化したジャンルに、ブルース・ロックというジャンルがあります。こちらで検索してみてください。サウンドはロックなのでより聴きやすいでしょう。これはイギリス発祥とされますが、勿論アメリカのアーティストも沢山います。こちらだと個人的にはピーター・グリーンやマイク・ブルームフィールドが好きなギタリストです。他にも沢山のバンドやアーティストがいるので気軽に聴いてみてください。

多くのブルーズミュージシャンが黒人であることは、ブルーズ国が誕生した経緯に密接に関わっています。これだけ粘り強い音楽です。その分だけ、彼らの創作エネルギーの元凶となった迫害が凄まじいものだったことは容易に想像できます。ブルース・ロックのアーティストたちには白人も多いです。これは単純に音楽に対するリスペクトだけでなく、ブルーズが表現している感情が、白人にも人類みんなにも分かる感情だったことが大きいでしょう。ブルーズはR&Bやジャズに、ブルースロックはハードロックやメタルに、それぞれの人々が繋いでいきます。もちろんブルーズの大元としてアフリカ音楽の名前も浮かぶ方もいらっしゃるでしょう。敢えてさらっと書きましたが、ブルーズ国の歴史に興味が湧いてきた方は本屋さんでブルーズの本を買ってきて、読みながらブルーズを聴くのもいいと思います。みなさんがお聞きの音楽のほとんどに、ブルーズの影が垣間見れます。不滅の魅力を放つ古の国。機会があればぜひ一度訪ねてみてください。