「レコードって聞いてるうちに擦り切れるんですよね?」たまにお客様から尋ねられるこちらの質問。簡潔にお答えすると、
擦り切れません。
現に、仕事柄何万枚とレコードの盤面を見てきましたが、擦り切れてるレコードを見たことがありません。70年ほど経過したLP黎明期のフラット盤であったとしても、です。
でも、たまに耳にしますよね。「あの曲は擦り切れるまで聞いた」って。
これは擦り切れないとわかった上で大袈裟なジョークとして仰っている場合ありますし、擦り切れると信じた上で仰っている場合もあります。信じるには理由があります。実は、擦り切れるレコードは大昔に存在したのです。それは今ではSP盤と呼ばれる蓄音機用のレコードです。
実は、世代によってレコードという言葉の指す物体が異なることがあるのです。蓄音機でかけるSPレコードと、レコードプレイヤーでかけるLPレコード。この2つは構造が全く異なります。SPレコードは硬い素材で出来ていますので、衝撃に弱く簡単に割れてしまいますし、聞くたびに盤面の溝が削られてなくなっていき、そのうち聞けなくなってしまいます。擦り切れるという表現の元となったであろうレコードです。それを改良する形で現れたのがLPレコード。柔らかい素材で、そう簡単には割れません。溝も弾力があるため、針が通過した後に元に戻る設計になっています。何千万回と聞けば擦り減ることもあるかもしれませんが、その前に針や人間が音を上げます。針に黒いものが付着することがあるとご相談を受けたこともありますが、溝にたまった埃です。拭けば取れます。SPとLPは見た目は似ていますが、レコード(LP)とCDくらい違うものと考えていいでしょう。今でもLP盤とSP盤を間違えて買取にお持ちいただくことは多々ございます。それぐらい見た目はそっくりです。
蓄音機用のSP盤が作られていたのがだいたい戦前の頃。有名なレーベルでは、ジャズのブルーノートが最初に作ったのはSP盤です。なので、蓄音機に触ったことのあるお方ですと、擦り切れると思っていても変ではありません。そして、「擦り切れるまで聞いた」っていうのが一種の慣用句化したのも事実だと思います。実際、CDでも「擦り切れるまで聞いた」と言う知人もいました。
つまり、LPレコード(当店取り扱いのほぼ全てがこちらのレコードです)に関しては、そこまで気にしなくても大丈夫ということです。ぜひ思う存分楽しんでください。